ミュージカル版では「純粋で健気な自己犠牲のヒロイン」として描かれるエポニーヌですが、ヴィクトル・ユゴーの原作小説『レ・ミゼラブル』では、はるかにダークで複雑な人間味を持っています。
原作における彼女は、貧困と過酷な環境によって精神的にもすさみ、狡猾さと激しい執着心を併せ持つ少女です。コゼットに夢中なマリウスへの嫉妬から、彼を絶望させて自分と同じ死の道連れにしようと企み、わざと彼を死地であるバリケードへと誘導します。「彼がコゼットと結ばれるくらいなら、一緒に死んで私のものにしたい」という狂気じみた情念を抱いていたのです。
しかし、銃撃戦の中でいざマリウスに銃口が向けられた瞬間、彼女の身体は無意識に彼を庇っていました。手と背中を貫通する致命傷を負ったエポニーヌは、息を引き取る間際にマリウスへコゼットからの手紙を手渡し、自らの策略を告白して許しを請います。ミュージカル版はこの生々しい愛憎劇から「自己犠牲の純愛」を抽出し、よりドラマチックに洗練させたことで、世界的な人気キャラクターへと昇華させました。