日本の音楽史を振り返ると、「アカシア」は単なる一植物を超えた巨大な文化的シンボルでした。その決定打となったのが、1960年(昭和35年)にリリースされ社会現象となった西田佐知子の『アカシアの雨がやむとき』(作詞:水木かおる/作曲:藤原秀行)です。この楽曲は、安保闘争の挫折と政治的熱気の喪失に打ちひしがれていた当時の若者たちの心象風景と完全に共鳴し、時代を象徴するアンセムとなりました。
その後も、石原裕次郎の『恋の町札幌』や『赤いハンカチ』、北原ミレイ、さらにはニューミュージック期の松任谷由実や平成・令和のインディーズに至るまで、アカシアを冠した名曲は途切れることなく生み出されています。当時の音楽プロデューサーの手記によると、「アカシアという言葉の響きには、どこか異国情緒(エキゾチシズム)と銀座や札幌といった洗練された都市の哀愁が同居しており、ヒット曲の黄金律として重宝された」と明かされています。