二人の関係性を紐解くうえで外せないのが、当時の複雑な権力構造である。中宮定子の後宮は、関白・藤原道隆のもとで自由で洗練されたサロン文化を誇っていた。そこに咲いた大輪の花こそが、清少納言の知的ユーモアあふれる筆致だった。
定子の死後、その圧倒的な文化的影響力に対抗し、新たな政治的権威を打ち立てる必要に迫られたのが藤原道長である。道長は一条天皇の心を後宮へ引き寄せるため、破格の待遇で優れた知識人である紫式部をスカウトした。彼女に課された使命は単なる物語執筆にとどまらない。最高峰の王朝文学を生み出し、サロンの格を爆発的に高めることだった。最高権力者たちの思惑が錯綜する政治の最前線で、ペンという武器を携えた女性たちがサロンの威信を賭けて挑んでいたのである。