本作を語る上で欠かせないのが、奇妙極まりない工場長ウィリー・ウォンカを怪演したジョニー・デップの存在です。スタジオ側は当時、ジム・キャリーやアダム・サンドラー、さらにはロビン・ウィリアムズといったコメディ界の大スターを候補に挙げていました。しかし、バートン監督はデップ以外の起用を頑なに拒んだと当時のプロダクションノートは伝えています。
脚本すら読まずに出演を即諾した盟友の絆
デップ本人が当時の米メディア取材で回想したところによると、バートンから「ウォンカ役をやってくれないか」と電話を受けた際、脚本すら読まずにその場で受諾の意を伝えたといいます。当時すでに『シザーハンズ』や『エド・ウッド』で深い芸術的共犯関係を築いていた2人にとって、言葉を交わさずとも目指すべき造形は共有されていました。 デップが提示したウォンカ像は、長年外界と遮断されていたことによる極度の人間嫌いと、子供じみた自己愛が同居する人物です。「ハワード・ヒューズのような隠遁者であり、1970年代の朝の子ども番組司会者のような不気味なテンション」というアプローチをバートンは全面的に支持しました。完璧に切り揃えられたボブヘアー、白塗り同然の肌、不自然なまでに輝く白い歯。それらはすべて、狂気と純粋無垢の境界線に立つ孤高の菓子職人を視覚化するための緻密な計算だったのです。
CG全盛期にあえて挑んだ「過激な実写主義」の舞台裏
本作が製作された2000年代半ばは、映画界がフルCGへと急速に舵を切っていた時期でした。しかし、バートン監督が選んだのは、イギリスの名門パインウッド・スタジオの巨大ステージを埋め尽くす「実物大セットの建造」という常軌を逸したアナログ手法でした。 * 約78万リットルのチョコレート川:粘度や色味を徹底的に追求し、特注の食用ゼラチンと染料を配合した本物の液体を使用。現場には常に濃厚なカカオの香りが充満し、撮影後半には発酵が進んで強烈な匂いを放ったという逸話が残されています。 * 40匹の本物のリスの調教:劇中でナッツを選別するシーンにおいて、CG合成による不自然さを嫌った監督は、英国の動物トレーナーに依頼して本物のリス40匹を数カ月間猛特訓。「クルミを叩いて中身を確認し、殻を剥いてゴミ箱へ捨てる」という一連の動作を実際に仕込みました。 * 実物大のバイオレットの巨大化:ブルーベリーのように膨らみ破裂寸前になる少女バイオレットの場面では、特殊なインフレータブルスーツを製作し、内部空気圧を制御しながら物理的に膨張させることで、皮膚の張りや重量感をリアルに表現しました。 観客が無意識に感じる「実物の持つ異様な質感」こそが、観る者をワンダーランドの熱病へと引きずり込んだ最大の演出トリックだったのです。