消費者の間で根強く信じられている誤解の一つに、「赤味噌は黒豆や赤大豆を使い、白味噌は白大豆を使っているのではないか」という仮説があります。しかし、味噌蔵の現場において使われている大豆は、基本的に同じ一般的な黄大豆(大豆の標準的な品種)です。色が白から褐色、漆黒へと劇的に枝分かれする理由は、「加熱調理法」と「発酵熟成期間の違い」、そして化学反応である「メイラード反応」にあります。
まず仕込み段階における大豆の加熱方法が決定打となります。白味噌を造る際、大豆はたっぷりの湯でじっくりと「煮る」工程を取ります。このとき、大豆に含まれる還元糖やアミノ酸、着色の引き金となる水溶性成分が煮汁へと溶け出します。さらに煮上がった大豆を素早く冷却して空気に触れさせないことで、褐変の連鎖を物理的に遮断するのです。
対照的に、赤味噌の製法では大豆を高温高圧の蒸気で長時間「蒸す」工程が採用されます。蒸すことによって大豆の細胞内に糖分やアミノ酸が凝縮されたまま保持され、加熱中からすでに大豆自体が淡い褐色へと色づき始めます。
仕込み後の発酵タンク内で主役となるのが、食品化学における「メイラード反応」です。大豆由来のアミノ酸と、麹の酵素によって米のデンプンが分解されて生じたブドウ糖が反応し、褐色色素である「メラノイジン」を生成します。白味噌は雑菌の繁殖を抑えつつ糖化を先行させるため、加温してわずか数週間から1ヶ月未満で出荷されます。メイラード反応が進行する前に熟成を止めるため、色は美しい白や淡黄色に保たれます。
一方の赤味噌は、常温の蔵で半年から1年、長いものでは3年もの歳月をかけてじっくりと発酵熟成させます。時間が経過するほどアミノ酸と糖が反応を重ね、淡褐色から赤褐色、さらには深みのある濃褐色へと変化を遂げていくのです。