多くの人が日本古来のことわざだと誤解していますが、この表現の直接のルーツは古代中国の前漢時代に成立した政治経済の記録書『塩鉄論(えんてつろん)』(桓寛・編)の「利議篇」にあります。 紀元前81年、前漢の昭帝の時代に、国の専売制(塩や鉄、酒などの専売政策)を巡って朝廷の高官と民間の儒学者たちによる国家レベルの大論争が巻き起こりました。その激論の中で登場したのが、次の漢文の一節です。
「言之易而行之難(これを言うは易くしてこれを行うは難し)」
中央政府の高官が掲げる華々しい財政再建策や軍事防衛論に対し、現場の実態を知る論者たちが「机上の空論を語るのは容易だが、民衆の生活を守りながら実際にそれを成し遂げるのは至難の業である」と鋭く突いた発言でした。つまり、この言葉は2000年以上も前から、政治や国家運営における「机上の空論 vs 現場のリアリズム」という統治の本質的な課題を指摘する文脈で誕生したものです。歴史の重みに裏打ちされた、極めて実践的なリアリズムの結晶と言えます。