SNSや美容系掲示板では「ワセリンを厚塗りすれば治る」「処方されたヒルドイドを塗っておけば万全」といった体験談が散見されます。しかし、臨床現場の皮膚科医からは、こうした安易な自己流ケアによって症状を泥沼化させている患者が後を絶たないという指摘が上がっています。
代表的な誤解が、口の周りの皮剥けに対するワセリンとセラミドケアの混同です。白色ワセリンは皮膚表面に油膜を張り、水分の蒸散を物理的に食い止める「エモリエント効果」には極めて優れています。しかし、ワセリン自体には水分や保湿成分を肌に補給する力(モイスチャライザー効果)は一切ありません。角層内部がカラカラに枯渇した状態でワセリンだけを塗り重ねても、インナードライ状態は一向に解消されず、かえって毛穴詰まりや常在菌バランスの乱れを引き起こします。
もう一つの深刻な盲点が、口周りの乾燥におけるヒルドイドの正しい使い方です。ヘパリン類似物質(ヒルドイド等)は高い保水力を持つ一方で、血流促進作用を併せ持ちます。すでに強い赤みやかゆみ、熱感が出ている急性炎症部位に塗布すると、血管拡張によって炎症が助長され、かゆみやヒリつきが激化することがあります。「赤みがある初期は刺激の少ないワセリン等で保護し、炎症が鎮静した後のバリア再建フェーズでヘパリン類似物質やセラミドを用いる」という段階的な使い分けが皮膚科学の鉄則です。