「なぜ親や介護者は世話をやめてしまうのか」という問いに対し、単なる愛情不足や悪意だけで片付けることはできません。関係省庁の調査や現場の報告書から浮かび上がるのは、個人の資質以上に家庭の孤立と多重のストレス要因です。
育児放棄の原因として最も多いのが、経済的困窮(貧困)、望まない妊娠・若年出産、保護者自身の精神疾患や知的発達の課題、そして「親自身が子ども時代にネグレクトや虐待を受けて育った」という世代間連鎖です。頼れる親族がおらず、地域社会から遮断された密室空間の中で、育児ノイローゼやうつ病を発症し、感情が麻痺した結果として育児機能を停止してしまう事例が後を絶ちません。
一方、近年社会問題化している介護ネグレクトの実態も極めて深刻です。認知症の高齢者を配偶者や独身の子が1人で抱え込む「老老介護」や「認認介護」、未成年者が家族の世話を一手に担う「ヤングケアラー」問題が背景にあります。
現場取材や当事者の手記には、「最初は一生懸命だったが、夜間の徘徊や失禁が続き、睡眠不足で限界を迎えてすべての感情が切れてしまった」という痛切な告白が残されています。介護疲れによるバーンアウト(燃え尽き症候群)から、無意識のうちに必要な水分や食事の介助を怠り、結果として衰弱死に至らしめてしまう構造的な悲劇が生じています。