『うたプリ』の楽曲を手掛ける音楽制作ブランド・Elements Garden(上松範康氏ら)の楽曲は、男性ボーカルにとって限界に近いハイトーンや複雑な転調、ダイナミックな音域移動が要求されることで知られています。その難関楽曲群において、初期からファンの度肝を抜いてきたのが谷山紀章の歌唱力でした。
四ノ宮那月というキャラクターは、温厚でおっとりとした性格を持ち、クラシックのヴィオラ奏者としてのバックボーンを持つ温かい音楽家です。しかし、眼鏡を外すと現れるもう一つの人格・砂月(さつき)は、苛烈で攻撃的なロックボーカルの資質を剥き出しにします。この二重人格の設定を、谷山紀章はスタジオ収録のみならず大型ライブの生歌でも完璧に表現してみせました。
初期の代表曲『サザンクロス恋歌』では、クラシカルな雄大さと美しいビブラートで那月の純真無垢な精神性を描き出し、対をなす『Top Star Revolution』では、喉を鳴らす鋭利なシャウトとハードロック仕込みのエッジボイスで砂月の荒々しさを叩きつけました。声優がキャラクターソングを歌うという従来の枠組みを超え、「音響機材の限界を試すような声量」と「2つの人格を瞬時にスイッチさせる憑依的な歌い分け」を提示したことで、うたプリという作品全体の音楽的ハードルを一気に引き上げた立役者であることは間違いありません。