地方区分をめぐる議論で必ずと言ってよいほど白熱するのが「三重県の中部近畿論争」です。学校の教科書ではまぎれもなく「近畿地方」と記載されているにもかかわらず、国の出先機関や民間企業のエリア分けを見ると、驚くほどバラバラな扱いを受けています。
経済産業省の出先機関である中部経済産業局や、国土交通省の中部地方整備局、さらには農林水産省の東海農政局において、三重県は愛知県や岐阜県とともに「中部・東海ブロック」として管轄されています。地元経済の中枢を担う中部経済連合会(中経連)の副会長ポストにも三重県の有力企業幹部が名を連ねており、経済政策や広域インフラ整備の観点では完全に中部圏として機能しています。
一方で、法務省の出先機関である大阪高等検察庁や大阪高等裁判所の管轄を見ると、三重県は大阪本庁ではなく名古屋高検・名古屋高裁に属しています。しかし警察庁の管区警察局では近畿管区警察局ではなく中部管区警察局に所属する一方、関西広域連合には三重県が「連携団体」として参加しているなど、公的機関の間ですら綱引きが続いています。
このズレの背景には、三重県が抱える地理的・歴史的二面性があります。北部の四日市市や桑名市は、東海道新幹線や近鉄名古屋線、東名名高速道路などを通じて名古屋都市圏への通勤・通学率が極めて高く、経済的な結びつきは中京圏そのものです。対照的に、伊賀市や名張市などの内陸部は大阪や奈良との結びつきが深く、近鉄大阪線で難波・鶴橋方面へ通勤する住民が多数を占めます。南部(東紀州・熊野地方)に至っては独自の紀伊半島文化圏を形成しています。
地元住民の間では「テレビの天気予報は東海3県枠、高校野球は近畿大会、買い物や就職は名古屋、言葉は関西弁に近い」という複雑なハイブリッド感覚が定着しています。行政や民間企業がそれぞれの目的(交通アクセス、物資輸送の効率、歴史的慣習)に応じて区分を都合よく定義した結果、三重県は「どちらでもある」という独自の立ち位置を確立するに至ったのです。