鯖の塩焼きがパサついてしまう最大の原因は、加熱によって魚肉の筋原線維タンパク質が急激に収縮し、内部の水分と脂質が外へ流出してしまう現象にあります。また、鯖が持つ特有の生臭さ(トリメチルアミンなどの揮発性塩基)は、鮮度低下とともに身の表面に浮き出る水分に含まれています。この悪循環を断ち切る鍵が、緻密に計算された下処理と塩の振り方です。
まず実践すべきは、高い位置から均一に塩を打つ「振り塩」の手法です。切り身1切れ(約100g)に対し、親指・人差し指・中指の3本でつまんだ塩(約1g〜1.5g、重量比1〜1.5%)を全体へまんべんなく振ります。塩を振ってから常温で15分から20分置くことで、浸透圧の作用により臭み成分を含んだ余分な水分が表面に浮き出してきます。
ここで最も重要な作業が、浮き出た水分をキッチンペーパーで徹底的に押さえ拭き取ることです。さらに、臭みが気になる場合は、塩を振る前に料理酒(または酒と酢を合わせた液体)を軽く霧吹きで吹きかけるか、サッとくぐらせてから拭き取るというひと手間を加えることで、アルコールの共沸効果により不快な臭気が劇的に揮散します。水分を適切に抜いた魚肉は組織が引き締まり、加熱時の過度な肉汁流出を防ぐため、結果として驚くほどふっくらとした焼き上がりになります。