山形県河北町谷地には、大正時代から続く「一寸亭(ちょっとてい)本店」や「といや」をはじめとする老舗が軒を連ねています。山形県麺類飲食生活衛生同業組合の歴史資料や現地での取材証言によると、肉そばの原型は大正初期、当時の蕎麦屋が宴会の残りの馬肉をそばに乗せて冷たいまま食べたことが発祥とされています。その後、昭和初期にかけてより手に入りやすく旨味の強い「親鶏」へと進化を遂げました。
現場の職人たちが口を揃えるのは、「蕎麦の太さとコシの強さが、濃厚な鶏だしを受け止める防波堤になる」という点です。東京風の繊細な更科蕎麦や細打ち二八蕎麦では、親鶏の強いコクに麺が負けてしまいます。山形の肉そばには、挽きぐるみのそば粉を使った、黒っぽく太打ちで噛み応えのある田舎蕎麦が不可欠です。
また、現地では真冬の雪深い季節でも8割以上の客が「つったい肉そば」を注文します。豪雪地帯でありながら冷たい麺をすする理由は、暖房で温まった店内で、キレのある冷涼な鶏だしを味わう爽快感が生活文化として定着しているためです。この揺るぎない食文化への誇りが、一杯のスープの完成度を高め続けています。