ニューエラのシールを貼ったままにするカルチャーは、単なる気まぐれやファッションの奇行から生まれたものではありません。その根底には、20世紀後半のアメリカにおける過酷な社会情勢と「ヒップホップ文化とブラックカルチャー」の歴史が深く刻まれています。
「ストリートファッションのカルチャー起源」を紐解くと、舞台は1980年代後半から1990年代のニューヨーク・ブロンクスやハーレム地区に遡ります。当時、ゲットーと呼ばれる過酷な環境で暮らすアフリカ系アメリカ人の若者たちにとって、高価なニューエラのキャップを手に入れることは並大抵のことではありませんでした。ストリートには万引きや盗品などの粗悪な横流し品が溢れており、彼らは以下の理由から意図的にシールを貼ったまま着用し始めたのです。
第1に、「ニューエラシール貼ったままの理由」として最も決定的だったのが「正真正銘の新品であり、自分の金で手に入れた正規品であることの証明」でした。ゴールドやシルバーに輝くバイザーステッカーは、街のブラックマーケットで流通する中古品や偽物ではないこと、そしてレジを通って購入したステータスを誇示する最大の武器だったのです。
第2に、極度の貧困状態にあった当時のストリートでは、持ち物を質屋に入れて現金化するサイクルが日常茶飯事でした。シールを綺麗に残したまま「極上のコンディション」を維持することは、いざという時に帽子を高値で売却し、明日の生活費に変えるための保険でもありました。生活の知恵とプライドが交錯したサバイバルの証こそが、シールの正体だったわけです。
特に「59FIFTYサイズステッカーの意味」は象徴的です。NEW ERAの代名詞である59FIFTYは、後頭部のアジャスターで大きさを調整できない「フィッテド(Fitted)」仕様となっています。約1センチ刻みで展開されるキャップにおいて、ステッカーに記された「7 3/8(58.7cm)」などの表記は、「他人の借り物や拾い物ではなく、自分の頭の形に完璧に合った一点物を手に入れた」という富と自己アイデンティティの誇示を意味していました。