北大路欣也を語る上で欠かせない転機が、2015年に女性週刊誌などのスクープで明るみに出た「夫婦での高級有料老人ホームへの転居」です。当時72歳、俳優として脂が乗り切っていた時期の決断だったため、世間には「重病を患ったのではないか」「引退準備か」と激震が走りました。
しかし、取材を進めると浮かび上がってきたのは、病気による療養などではなく、夫婦の強い絆に裏打ちされた「究極の自立選択」でした。
北大路欣也は1977年、15歳の頃に出会って長年育んできた幼馴染である祥子(さちこ)夫人と結婚しました。ふたりの間に子供はいません。芸能関係者の証言によると、夫妻はかねてより「もしどちらかが倒れたとき、残されたほうに精神的・体力的な介護負担を背負わせたくない」と深く話し合っていたといいます。
子供がいれば将来の介護を相談することも可能ですが、夫婦ふたりきりの世帯では、老老介護の果てに共倒れするリスクが常につきまといます。北大路欣也は長年暮らした広大な自宅を思い切って整理し、24時間プロの医療・介護スタッフが常駐する都内屈指のハイグレード施設へと拠点を移しました。「誰かの重荷にならず、最期までお互いに笑顔で向き合う」ための決断であり、世間が抱くネガティブな施設入居のイメージを根底から覆す、極めて先見性に満ちた選択でした。