福島原発・吉田所長の真実|海水注入の決断と吉田調書が語る死闘の光影

福島原発・吉田所長の真実|海水注入の決断と吉田調書が語る死闘の光影

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福島第一原発事故の初期において、今なお最大のドラマとして語り継がれているのが、1号機への海水注入を巡る攻防です。3月12日夕刻、炉心を冷却するための淡水が枯渇し、最後の手段として選ばれたのが消防車を用いた海水注入でした。しかし、この現場の緊急措置に対して、東京の政治中枢と東電本店から強い横槍が入ることになります。

当時の首相であった吉田所長と菅直人官邸の対立は、再臨界リスクへの懸念から生じました。官邸に詰めていた原子力安全委員会の班目春樹委員長らが「海水注入によって未臨界状態が破れ、再臨界(核分裂の再連鎖)が起きる可能性はゼロではない」と慎重論を述べたことを受け、官邸サイドから「総理の了解が得られるまで注入を待て」との意向が本店経由で現場に伝えられたのです。

東電本店の武黒一郎フェロー(原子力担当)から「海水注入を中止しろ」と電話で強く迫られた吉田所長は、即座に現場技術者としてのリアリズムを優先させました。淡水がない以上、海水を止めれば原子炉格納容器の破裂、ひいては核燃料の大規模な大気中放出につながることは明白だったからです。ここで下されたのが、福島原発吉田所長による海水注入の続行という歴史的決断でした。

吉田所長は本店からの通話口では指示に従う素振りを見せつつ、即座に復旧班の班長へ歩み寄り、「今から言うことはオフレコだ。本店から止めろと言われても絶対に止めるな。俺がテレビ会議で大声で中止を叫んでも、そのまま注入を続けろ」と耳打ちしたと証言されています。官邸や本店の顔色を窺う官僚機構的な論理を完全に断ち切り、現場の安全最優先を貫いたこの独断は、後に事故調の検証でも「原子炉冷却を継続させた極めて適切な現場判断」として高く評価されることとなりました。

田中 結衣
著者

田中 結衣

グルメと旅を愛するフリーライター。全国各地の隠れた魅力を独自の視点から紹介します。