上野樹里のキャリアを振り返る際、常に語られるのが「作品ごとに別人に生まれ変わる」と評される圧倒的な演技力です。その原点となったのが、2004年公開の映画出演作『スウィングガールズ』でした。東北の女子高校生たちがビッグバンドジャズに打ち込む青春劇で、サックスの猛特訓を経て吹き替えなしで挑んだ姿は瑞々しく、第28回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。一躍、次代を担う若手女優として脚光を浴びます。
そして2006年、彼女の名前を国民的スターへと押し上げたのが、フジテレビ系月9ドラマ『のだめカンタービレ』です。奇想天外な行動を取りながらもピアノの天才的な才能を持つ野田恵という難役を、コミカルな顔芸や特異な擬音混じりの台詞回しまで完璧に体現。漫画原作の実写化として歴史的な大成功を収め、世間に「上野樹里=のだめ」という鮮烈な印象を植え付けました。
しかし、彼女の真の凄みは、その強烈なイメージに安住しなかった点にあります。2008年の代表作ドラマ『ラスト・フレンズ』では、性同一性障害に深く苦悩するモトクロス選手・岸本瑠可役を熱演。髪をバッサリと切り落とし、孤独と葛藤を抱えた鋭い眼差しと繊細な身体表現でギャラクシー賞個人賞を受賞するなど、パブリックイメージを鮮やかに覆しました。
その後、2011年のNHK大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』で主演を務めるなど重厚なキャリアを積み重ね、2019年からスタートした代表作『監察医 朝顔』で新たな到達点を見せます。東日本大震災で母を失った悲しみを抱えながら、法医学者として、そして一人の母として日常を紡ぐ万木朝顔の姿は、過剰なドラマツルギーを削ぎ落とした「日常のリアルな温もり」を伝えるものでした。月9枠で異例の2クール連続放送が実現した背景には、視聴者が彼女の静かな演技に深く共振した事実が存在します。