大会2日目の夜、スタジアム全体に異様な緊張感が張り詰める中で行われた男子100m決勝は、ファンの誰もが息をのむ結末を迎えました。スタートラインに立ったのは、前年のオレゴン世界陸上7位入賞の実績を持つサニブラウン・アブデル・ハキーム、地元関西の声援を背に受ける坂井隆一郎、急成長を遂げる若手の栁田大輝ら8名。しかし、日本人初の9秒台スプリンターである桐生祥秀の姿はそこにありませんでした。桐生は同日夕方の準決勝1組で10秒27の6位に沈み、まさかの予選敗退を喫していたのです。
号砲とともに飛び出したのは、圧倒的なスタートダッシュを武器とする坂井隆一郎(大阪ガス)でした。低く鋭い飛び出しから中盤までトップを維持し、猛追する栁田大輝(東洋大)をわずか100分の2秒差で振り切って10秒11(向かい風0.2m)でフィニッシュ。地元ファンの大歓声の中で悲願の日本選手権初制覇を成し遂げました。
一方で、スタジアムを騒然とさせたのがサニブラウン・ハキームの失速です。スタート直後から本来の伸びやかな加速が見られず、中盤以降も先頭集団から大きく離され、10秒59の最下位(8位)でゴールラインを通過。レース直後のミックスゾーンでサニブラウンは、表情を強張らせながらも「腰に張りがあり、身体が全く動かなかった。自分の実力不足」と静かに語りました。一発選考の舞台におけるコンディション調整の恐ろしさと、勝負の非情さを改めて見せつけるレースとなりました。