もちろん、すべてが順風満帆なわけではない。2020年代半ばから続く世界的な食肉・乳製品の価格高騰、そして光熱費の負担増は、手作りにこだわる洋食店にとって容赦のない試練となっている。上質な牛肉を惜しみなく使い、何日も煮込むドビソースを守り続けるコストは、かつてないほど跳ね上がった。
安易な値上げで客を遠ざけたくない、かといって食材の質を落とせば看板に泥を塗ることになる。板挟みの中で、彼らは仕入れの見直しや端材の徹底活用など、見えない部分での血のにじむような工夫を重ねている。「味を変えないために、やり方を変える」。現場から聞こえてくるのは、伝統という重圧を背負いながら前を向く、職人たちの静かな気概だ。