医療用麻薬に対する強い忌避感には、「麻薬中毒になって人格が崩壊するのではないか」「息が止まるのではないか」という生理的な恐怖心も関わっています。しかし、医療の現場で扱われるオピオイド鎮痛薬と、違法薬物の乱用は根本的に性質が異なります。
まず、「モルヒネの中毒性や依存性」に関する噂は明らかな嘘です。強い痛み(がん性疼痛など)が存在する状況下でモルヒネを適切に投与した場合、脳内の神経受容体は痛みのシグナルを遮断することに消費されるため、快楽を求めて薬を渇望する「精神的依存」は極めて発症しにくいことが神経薬理学的に証明されています。痛みが引けば、医師の指示のもとで計画的に減量・中止することも可能です。
次に、懸念される副作用の実態と対策は次の通りです。
・呼吸抑制:確かに過剰投与時の危険な副作用ですが、患者の痛みの強さに応じて少量から段階的に増量する現代の投与管理下では、致命的な呼吸抑制が突発的に起きる確率は限りなくゼロに近いとされています。
・せん妄・幻覚:モルヒネが原因で幻覚が見えることも稀にありますが、終末期のせん妄は感染症や脱水、電解質異常、環境変化など複数の因子が絡み合って生じます。薬の影響が疑われる場合は、オピオイドの種類を変更(オピオイドスイッチング)したり、抗精神病薬を併用することで速やかにコントロールされます。
・便秘・嘔気・眠気:最も頻度の高い副作用ですが、便秘薬や制吐薬の予防投与をセットで行うことが標準化されており、眠気も数日から1週間程度で身体が慣れて軽快することが大半です。