楽曲の持つ圧倒的な郷愁と祝祭感の源泉は、緻密に計算されたコード進行と旋律の相互作用にあります。『島人ぬ宝』の原曲キーは「Fメジャー(ヘ長調)」です。テレビの音楽特番やドキュメンタリーで比嘉栄昇氏が語った「石垣島の中学生たちから寄せられた『島の良さがわからない』という言葉を受け止め、素朴な感情をそのまま音にした」という制作秘話の通り、メロディ自体は非常に平易でありながら、和声進行には深い音楽的工夫が凝らされています。
Aメロからサビに至る基本骨格は、西洋ポピュラー音楽における王道のダイアトニックコード(F - C - Dm - Am - Bb - F - Gm7 - C7)で構成されています。一見するとカノン進行の変形にも似た親しみやすい流れですが、最大の決定打は「琉球音階的ニュアンスを西洋和声の枠組みに巧みに落とし込んでいる点」にあります。
沖縄の伝統音楽では「ド・ミ・ファ・ソ・シ」で構成される琉球音階(ニロ抜き音階)が主調となりますが、『島人ぬ宝』のボーカルラインは敢えて民謡そのままではなく、全国の誰もが口ずさめるポップスとしての普遍性を持たせています。その歌メロの背後で、三線の装飾音とアコースティックギターのコード感が絶妙に交差することで、唯一無二の「沖縄の風」が立ち現れる構造です。