インターネット上で『コマンドー』の吹き替えが語られる際、時に事実とは異なる誤解や都市伝説が散見されます。その代表例が「テレビ朝日版は地上波放送用に作られたため、ノーカットの完全版は存在しない」という言説です。
かつての地上波放送は放送枠の都合上、本編が約72分前後に短縮編集されていました。そのため、テレビ朝日版しか知らない視聴者は長年、カットされたシーンの日本語音声を聴くことができませんでした。この状況を劇的に打破したのが、20世紀フォックス(当時)が立ち上げたブルーレイレーベル「吹替の帝王」です。
2013年4月に発売された『吹替の帝王 コマンドー<日本語吹替完全版>コレクターズBOX』において、約24年の歳月を経て玄田哲章氏や若本規夫氏ら当時のオリジナルキャストが奇跡の再集結を果たしました。カットされていた約18分間の未収録シーンに対して追加収録(追録)が行われ、完全版のテレビ朝日版吹替が完成したのです。この快挙は吹替ファンを熱狂させ、以後の洋画名作ブルーレイ復刻ブームの決定的な火付け役となりました。
その一方で、時の流れは過酷な現実ももたらしています。キャストの物故状況について、ネット上では誤った情報が錯綜することがありますが、客観的な事実関係を整理しておく必要があります。
- 石田太郎氏(TBS版ベネット役):2013年9月逝去。重厚な名演で作品を引き締めた名優でした。
- 鈴置洋孝氏(TBS版サリー役):2006年8月逝去。『ガンダム』のブライト役などでも知られる名声優でした。
- 小林勝彦氏(テレビ朝日版アリアス元大統領役):2005年12月逝去。威厳ある悪役ボスを見事に演じました。
- 島香裕氏(テレビ朝日版クック役):2019年7月逝去。「車は粗末に扱うな」のやり取りで知られる怪力部下を熱演しました。
- 西尾徳氏(TBS版クック役):2005年7月逝去。個性的な悪役俳優・声優として活躍しました。
- 坂口芳貞氏(TBS版アリアス役):2020年2月逝去。モーガン・フリーマンなどの吹き替えでも知られる重鎮でした。
このように惜しくも鬼籍に入られたレジェンドたちが存在するからこそ、彼らが遺した吹き替え音源は、日本の文化遺産としてより一層かけがえのない価値を放っています。