建て替え協議がこれほどまでに長期化している最大の要因は、このビルが持つ歴史的成り立ちにあります。終戦直後、新橋駅前には不法占拠を含む広大な闇市「新生マーケット」が広がっていました。1960年代後半、東京都による駅前広場の整備と防災都市づくりを目的とした市街地改造事業によって、それらの露店商・個人商店を集約して建設されたのがニュー新橋ビルです。
その結果、地下1階から地上4階までの低層商業フロアは極めて細かく分割され、区分所有権が割り当てられました。一坪単位とも言われる細分化された床の権利者は約300名から400名規模にのぼります。これが、現代の再開発において最も厄介な「権利関係の難航」を引き起こす震源地となっています。
現場取材で見えてくるのは、権利者層の高齢化と世代交代による利害の不一致です。長年自ら店舗を切り盛りしてきた創業世代は「人生の最期までこの場所で商売を続けたい」という愛着を抱く一方、相続によって権利を引き継いだ次世代は「固定資産税の負担を解消し、早急に現金化したい」、あるいは「毎月の安定した賃貸収入を失いたくない」など、立場ごとに利害が激しく対立しています。区分所有法が定める建替え決議要件(区分所有者および議決権の各5分の4以上の多数)のハードルは、想像以上に高い壁として立ちはだかっています。