無一郎の死を語る上で欠かせないのが、第21巻179話で描かれた兄・有一郎との再会です。息を引き取った無一郎が目を覚ますと、そこは霞がかかった死後の境界でした。目の前には、11歳の時に鬼に襲われて命を落とした双子の兄・有一郎が立っていました。
しかし、再会した有一郎が開口一番に浴びせたのは、無情とも思える厳しい言葉でした。
「戻れ! 何でお前が死ぬんだ! こんなところで何をしてるんだ! 逃げればよかったんだ! お前はまだ十四だぞ!」
「お前なんかのために、たくさんの人が命を落としたんじゃない! お前が死んだら、何のために俺が…! 無駄死にだ、こんなの!」
最愛の弟を失った怒りと悲嘆から、思わず「無駄死に」と罵倒して突き放そうとする有一郎。だが、無一郎は兄の胸に飛び込み、涙を流しながら真っ直ぐに訴えかけます。
「僕が何のために生まれたのかは、僕自身が知ってるよ。僕はね、幸せだったんだ。仲間ができて、大切に思える人たちがいて、誰かのために命を懸けられた。無駄死になんて言わないで。他の誰でもない、僕は幸せになるために生まれてきたんだ」
この言葉を受けた有一郎は、弟を強く抱きしめ、「ごめん、わかってるよ。だけど俺は、お前に死なないでほしかったんだ…」と本音を吐露して号泣します。この対話こそが、時透無一郎というキャラクターの魂を完全に救済した瞬間でした。理不尽な暴力で肉体を奪われながらも、彼の精神は決して敗北しておらず、自らの意志で選び取った尊厳ある生であったことが示されたのです。