数ヶ月に及ぶ休業期間を経て営業を再開した飛田新地には、それまで決して見られなかった異様な光景が広がっていた。トレードマークであった「間近で顔を見せる」対面スタイルを根本から見直し、玄関口の上がり框には巨大な透明アクリル板が設置された。遣手婆の手には消毒用スプレーが握られ、入店時の検温とアルコール消毒が厳格に義務付けられたのである。
「顔を隠す」「距離を置く」という行為は、本来であれば歓楽街のビジネスモデルにおいて致命的な障壁となり得た。しかし、組合主導で徹底されたこの感染対策は、むしろ訪問客に対する強烈な安心感として作用した。現在では、かつての厳格な衛生プロトコルは状況に合わせて柔軟に最適化されつつも、一度構築された衛生意識と危機管理のインフラは、店舗運営の基本仕様として完全に定着している。