SNSや動画投稿サイトにおいて、奥多摩工業氷川工場はしばしば「まるでファイナルファンタジーの魔晄炉」「リアル軍艦島」といった扇情的な見出しで紹介されてきました。風化したコンクリートの質感や、山肌を削り取って建て増しされた複雑なステップ構造が、初見の人間に「放置された遺構」という錯覚を抱かせるためです。
しかし、現地に一歩近づけば、その噂が事実無根であることは瞬時に理解できます。耳を澄ませば低く唸るクラッシャー(破砕機)の重低音とモーターの駆動音が響き渡り、配管の隙間からは白い水蒸気が力強く立ち上っています。奥多摩駅前の石灰石プラントとして知られるこの施設は、現在も休むことなく稼働を続ける産業の中枢そのものです。
現場取材班が捉えた近傍の空気には、石灰石の微粒子がわずかに混ざり、トラックが粉粒体を積載して次々とゲートを出入りしています。この工場が稼働を止めたことはなく、廃墟どころか、首都圏で最も濃密な稼働熱を放つ産業現場のひとつなのです。