ここ数年で実験室生まれのラボグロウンダイヤモンドや合成サファイアの製造コストは暴落した。数万円も出せば、クラリティ(透明度)もカットも完璧な大粒の石が手に入る時代だ。しかし、市場が均一な美で満たされると、人間の欲望は不思議な方向へ舵を切る。
いま買い手が探しているのは「傷のない石」ではない。内部に地球の歴史を閉じ込めたようなインクルージョン(包有物)や、二つとして同じ色合いが存在しないバイカラーのサファイア、結晶の武骨な造形美をそのまま残した原石だ。完璧すぎる人工物に対する一種の「退屈」が、天然鉱物が持つ個性の再評価に火をつけたのだ。