家庭園芸の現場で最も頻発する失敗が、「果実を甘く大きくしたいから」と夏から秋にかけて漫然と化成肥料を追肥してしまうパターンです。しかし、植物生理学の観点から見ると、これは甘いみかんを作るうえで正反対の行動となります。
果実が成熟に向かう8月下旬から秋口にかけて窒素分が土壌に残っていると、樹は果実へ糖分を蓄積させる「生殖成長」を止め、新しい枝や葉を伸ばす「栄養成長」を再開してしまいます。その結果、光合成によって作られた貴重な炭水化物が新梢の伸長に浪費され、果実に糖が運ばれなくなります。さらに、果皮の着色が遅れて青みが残り、クエン酸などの有機酸が分解されにくくなるため、「水っぽくて酸っぱいみかん」に仕上がってしまうのです。
また、みかんの実がつかない決定的な原因の多くも、この施肥タイミングの狂いに起因します。特に初春の肥料が遅れたり効きすぎたりすると、花芽ができるはずの節から葉芽ばかりが吹き出し、開花そのものが阻害されます。開花直前や着果初期の過剰な窒素吸収は「ジベレリン」などの植物ホルモンのバランスを乱し、生理落果を爆発的に増やす引き金になります。みかんを甘く実らせるためには、樹が肥料を欲するタイミングで的確に効かせ、果実が熟す時期には土中の肥効をきれいに切るというメリハリが欠かせません。