彼の視覚的アプローチは、1940年代から50年代にかけてハリウッドを席巻した「フィルム・ノワール」の形成においても決定的な役割を果たした。暗鬱な都市の路地裏、深く立ち込める影、歪められた遠近感——『第三の男』での不朽の名演や、自ら監督を務めた『黒い手帖(Touch of Evil)』で見せた驚異的な冒頭3分間の長回しは、ノワール美学の頂点として語り継がれている。
運命に翻弄される悪人たちや、退廃した世界の空気感を一瞬の構図で切り取る彼の感性は、後代のジャンル映画の監督たちに多大なインスピレーションを与え続けた。影を単なる背景ではなく、登場人物の葛藤や宿命を雄弁に語るキャラクターとして扱ったことこそ、彼の真骨頂と言える。