毎年4月中旬から5月初旬にかけて、園芸相談窓口や営農指導の現場に殺到するのが「植えたばかりのきゅうり苗が立ち枯れてしまった」「下葉から白っぽく干からびてきた」というトラブルです。この現象は病気ではなく、時期尚早な定植によって引き起こされるきゅうり苗が枯れる失敗理由の典型例、すなわち「低温障害と根の吸水停止」に起因しています。
きゅうりの原産地はヒマラヤ山麓からインド北東部の熱帯雨林地域とされ、温暖多湿を好む生理的特性を持っています。生育に適したきゅうり植え付け適正気温は、日中で22℃〜28℃、夜間でも15℃以上が目安です。気温が10℃以下に落ち込むと成長が完全にストップし、地温が15℃未満の状態では根毛からの水分やリン酸などの栄養吸収が著しく阻害されます。
晴天の昼間は20℃を超える春先でも、夜間から明け方にかけて放射冷却で急激に冷え込む日があります。地温が低く根が活動できない状態で、昼間の強い日差しによって葉からの蒸散だけが活発になると、苗は自ら体内の水分バランスを崩し、脱水症状に陥ります。これが、ネット上でよく見られる「水やりをしたのにしおれて枯れる」という現象の正体です。
さらに晩霜(遅霜)の直撃を受ければ、細胞内の水分が凍結膨張して細胞壁を破壊するため、一夜にして苗全体が黒変して壊死に至ります。もしどうしても4月中に定植する場合は、寒冷紗や肥料袋を活用したアンドン囲い、透明ビニールのホットキャップといったきゅうりの霜対策と防寒方法を物理的に講じない限り、苗の生還率は極めて低くなります。