原稿用紙を前にして鉛筆が止まってしまう最大の理由は、「本の内容を漏れなく要約しなければならない」という強迫観念にあります。多くの生徒が「物語の流れを最初から説明しよう」と試みますが、これはあらすじ作りに過ぎず、感想文ではありません。ストーリーを追おうとすればするほど文字数の配分が崩れ、後半に息切れして「面白かったです」の一言で終わってしまうパターンに陥ります。
もうひとつの原因は、「立派な感想を書かなければ怒られるのではないか」という心理的ブレーキです。主人公の行動に道徳的な正解を見出そうとすると、どこかで聞いたような借り物の言葉しか出てこなくなり、筆が進まなくなります。
この停滞を打破する裏ワザが、夏休みの宿題を一日で終わらせる書き方の基本でもある「心に引っかかった1シーンへの集中砲火」です。物語全体を網羅する必要はまったくありません。「なぜあそこで主人公は怒ったのか」「自分が同じ立場なら絶対に逃げていた」など、心がわずかでも動いた1箇所だけを付箋でマーキングし、その場面だけを起点にして原稿を組み立てます。本全体を相手にするのではなく、特定の場面と自分の感情を1対1で対峙させることが、原稿用紙を一気に埋める突破口になります。