明確な結論を述べれば、「似非」の正しい読み方は「えせ」の一択である。「にせ」と読むのは訓読みや音読みの体系としても成立しない純粋な誤読だ。漢字の「似」は「似る」、「非」は「非ず」を意味し、字義どおりに下せば「似て非なる」という構造を持つ。しかし、この漢字の組み合わせに対して大和言葉の「えせ」という音を当てたのが、日本語における歴史的な表記の妙である。
意味の面では「格好ばかりで実質が伴わないこと」「本物を装っているが偽物であること」を指す。現代語では主に接頭辞として機能し、「似非文化人」や「似非科学」のように名詞の頭に付加されるのが一般的だ。一方、「偽(にせ)」は本物を騙る目的で作られた模造品そのものを指す場合が多い。「似非」は物そのものの偽造というより、その人物の態度や内容に対する嘲笑・揶揄のニュアンスを含んでいる点が決定的な違いと言える。2026年時点の最新の国語辞典においても、この「似て非なる嘲弄の接頭辞」という定義の幹はまったくぶれていない。