腹水自体は「病名」ではなく、何らかの深刻な疾患によって引き起こされる「ひとつの症状」に過ぎません。体内の血管やリンパ管から液体成分が漏れ出し、腹腔内に貯留するメカニズムには明確な病理学的背景が存在します。猫の腹水がたまる原因と病気として代表的なものは以下の通りです。
第1に、若い猫(特に1歳未満〜若齢期)に多発する猫伝染性腹膜炎(FIP)のウェットタイプです。猫コロナウイルスが体内で強毒性に変異することで激しい血管炎を引き起こし、タンパク質を豊富に含んだ黄色く粘り気のある滲出液(腹水)が急速に溜まります。発熱や元気消失、食欲減退を伴い、無治療のまま放置すれば短期間で死に至る過酷な感染症です。
第2に、シニア猫を中心に警戒すべきが猫の心不全と腹水の関連性です。特に「肥大型心筋症(HCM)」が悪化して右心不全に陥ると、全身から心臓へ戻る静脈血が鬱滞し、静脈圧が上昇します。その結果、血管内から水分が漏れ出して腹水となります。猫の心筋症は初期症状に乏しく、ある日突然にお腹が膨らむ、あるいは肺水腫や胸水を併発して猫の腹水による呼吸困難に陥るケースが目立ちます。
その他にも、肝硬変や重度の肝炎による門脈圧亢進症、腎臓疾患や腸疾患に伴う「低アルブミン血症」(血液の浸透圧を保てず水分が漏れ出す病態)、さらには消化器型リンパ腫や血管肉腫といった悪性腫瘍(がん性腹膜炎)が原因として挙げられます。腹水が溜まった時点で、どの疾患であっても身体の主要臓器が破綻寸前まで追い込まれている証左です。