日本の順位が低い理由を紐解くには、国境なき記者団が導入している評価基準と採点方法を正しく理解する必要があります。RSFは2022年以降、評価を以下の「5つの定量的・定性的指標」に細分化して集計しています。
- 政治的文脈(Political context):政治権力からの干渉や独立性
- 法的枠組み(Legal framework):情報アクセス権やジャーナリスト保護に関する法律
- 経済的文脈(Economic context):メディアの寡占度やスポンサーへの従属性
- 社会文化構造(Sociocultural context):タブーや同調圧力、社会的差別への追及自由度
- 安全性(Safety):記者への身体的攻撃、脅迫、拘束の有無
日本は「安全性」指標においては比較的高得点を維持していますが、その他の項目、とりわけ「社会文化(108位)」と「政治的文脈」で大きくスコアを落としています。その法制度的・政治的トリガーとなったのが、以下の2つの重要トピックです。
1. 特定秘密保護法とメディアの取材萎縮
2013年に成立した特定秘密保護法とメディアの関係は、国際社会から長年にわたり厳しい監視の目に晒されてきました。安全保障に関する情報を「特定秘密」に指定し、漏洩を処罰する同法は、行政機関の裁量によって秘密の範囲が無制限に広がるリスクを内包しています。取材活動そのものが「教唆」や「煽動」とみなされる法的リスクが残されたことで、官公庁の内部告発者や調査報道を志すジャーナリストに対する強烈な萎縮効果(チリング・エフェクト)を生み出しました。
2. 放送法4条を巡る「政治的公平性」の解釈論争
放送法第4条が定める「政治的公平性」を巡り、時の政権が「一つの番組のみでも極端な場合は不公平と判断し得る」といった解釈変更を示唆した問題は、放送局の報道姿勢に深刻な影を落としました。電波停止を命じる権限(放送法76条・電波法76条)を総務省が握り続けている構造そのものが、放送局経営陣に対する無言の圧力となり、過度なバランス論や政権批判の自主規制を助長させる温床となっています。