「下駄=我慢して履くもの」という固定観念を持つ人が下駄のみずとりに足を入れた瞬間、まず覚えるのは木肌が足裏全体に吸い付くような異次元のフィット感だ。従来の一本歯や二本歯、あるいは平らな千両下駄は、直線的な木板の上に足首を固定しないまま乗せるため、指先で鼻緒を強く挟み込む力が必要だった。この無理な力みが、前坪(まえつぼ)による皮膚の擦れや足裏の筋膜炎を引き起こす元凶となっていた。
水鳥工業はこの構造的欠陥を打破するため、静岡大学教育学部や静岡県工業技術センターとの産学官共同研究を重ね、日本人の足型計測データに基づく「三次曲面フットベッド」を完成させた。足裏の土踏まず(内側縦アーチ)、外側縦アーチ、指の付け根の横アーチという3つのアーチ構造にぴったり密着するよう、木台そのものをミリ単位の凹凸で立体的に削り出している。これにより、歩行時の体圧が踵(かかと)や母趾球だけに偏らず足裏全体へ均等に分散され、局所的な痛みが大幅に軽減される。
鼻緒の構造にも独自の工夫が施されている。熟練の静岡職人が手作りする鼻緒の内部には、医療用クッション材や衝撃吸収ウレタンが贅沢に封入されており、幅も従来品の約1.5倍から2倍と広い。さらに、指股に当たる前坪の位置を日本人の骨格に合わせてミリ単位で最適化し、左右非対称の設計を取り入れている。足を包み込む面積を広げることで、歩行時に指先だけで下駄を持ち上げる必要がなくなり、サンダルと同じように足の甲全体で靴を持ち上げる動作が可能になった。これが、長時間の歩行でも水ぶくれや靴擦れを起こさない技術的根拠である。