なぜ多くの組織は、至上目的を掲げながらも迷走してしまうのでしょうか。社会学や組織心理学の知見は、この問題に明確な解答を与えてくれます。
アメリカの社会学者ロバート・キング・マートンが提唱した「目標の転移(Displacement of Goals)」という概念があります。官僚制組織などにおいて、本来は目的を達成するための規則や手段(至上命題)であったものが、いつの間にかそれ自体が目的化し、本来の至上目的が忘れ去られる現象です。これに組織心理学における「心理的安全性」の欠如が重なると、メンバーは「手段を盲目的にこなすこと」に逃避し、思考停止に陥ります。
また、人間関係や親子関係の臨床心理学で問題視される「共依存」や「心理的バウンダリー(境界線)の侵食」と同様の力学が、組織内でも発生します。経営者が自身の個人的野心(至上命題)を「全社員の至上目的」として強要するとき、組織はカルト化し、個人の主体性は窒息します。ピーター・ドラッカーが『マネジメント』で強調した「企業の目的は、顧客の創造である」という原則は、利益という「至上命題」が目的へとすり替わる危険を戒めた先見的な警告でした。
【プロの結論】至上目的を掲げるべき組織・避けるべき状況の明確な判断基準
至上目的という強力な言葉は、劇薬でもあります。組織の現状に応じて、使うべきか慎重になるべきかの境界線を見極める必要があります。
- 導入が推奨される組織・状況:
- 事業拡大やM&Aに伴い、異なる企業文化を持つメンバーの結束軸が必要な場合
- 変化が激しい市場環境で、既存の業務プロセスを根本から再構築(ピボット)すべき変革期
- 経営陣から現場まで、日常業務が社会にどう繋がっているかを見失い、モチベーションが減退している組織
- 使用を避けるべき・慎重になるべき組織・状況:
- 目前のキャッシュフロー危機など、直近の数値目標(至上命題)のクリアに全精力を傾けるべき倒産寸前の局面
- 評価制度や報酬体系が短期インセンティブに極度に偏っており、理念を語ることが現場のシニシズム(冷笑)を招く環境
- 経営トップが掲げる「至上目的」と日々の意思決定(コストカットやリストラ手法)に深刻な矛盾が生じている組織