情報が氾濫するWeb空間において、当事者を混乱させている最大の誤解は「発達障害の薬を飲めば、すべての生きづらさが消える」という幻想です。ADHDの治療薬(中枢神経刺激薬など)は、脳内のドパミンやノルアドレナリンの働きを調整して集中力を高める効果が期待できますが、アダルトチルドレン特有の「無価値感」「見捨てられ不安」「過剰な罪悪感」といった認知的歪みを薬で消し去ることはできません。
もう一つの盲点は、複雑性PTSDとアダルトチルドレンの境界です。ICD-11に公式採用された「複雑性PTSD(Complex PTSD)」は、逃れられない状況下で反復的に受けたトラウマ(小児期の虐待やドメスティック・バイオレンスなど)によって生じる精神疾患です。感情制御の困難、自己否定感、対人関係維持の困難という3大特徴を持ち、従来のPTSDよりも症状が広範に及びます。医学的には、重度のアダルトチルドレンの多くがこの複雑性PTSDに該当すると臨床現場ではみなされています。
また、ASD(自閉スペクトラム症)の特徴である「相手の感情を推し量るのが苦手」という点と、ACの「親の顔色を病的に察する」という特徴は対極に位置するように見えます。しかし、ASD当事者がこれまでの対人トラブルから学んだ防衛策として、「理屈で相手の機嫌を過剰に分析する」というマスキング(擬態)を行う場合があり、外見上はACの過剰適応と完全に見分けがつかなくなる事態も発生しています。