ネットニュースやSNSを中心に広まった代表的な誤解が、「松本人志と文春は裏で和解金を支払って和解したのではないか」という臆測です。しかし、法的な記録が示す事実は全く異なります。この裁判の結果は和解ではなく、原告(松本氏側)による訴えの取り下げであり、被告(文春側)がそれに同意したことによって成立しています。
日本の民事訴訟法上、「和解」と「訴えの取り下げ」には明確な境界線が存在します。
- 裁判上の和解:裁判所が仲介し、双方が譲歩し合って合意書(和解調書)を作成する手続き。金銭の支払い条件や謝罪条項などが法的効力を持って明記される。
- 訴えの取り下げ:原告が訴訟自体を一方的に撤回し、初めから訴えがなかった状態に戻す手続き。被告側の同意が必要であり、金銭の支払いや謝罪広告の義務は一切発生しない。
実際に発表された双方の公式声明を確認すると、文藝春秋社側は「原告代理人から、訴えを取り下げたい旨の連絡を受け、同意することといたしました。取材・報道において何ら誤りがあったとは考えておらず、金銭の授受や謝罪条項も一切ありません」と明確に述べています。つまり、約5億5000万円に及ぶ損害賠償請求は単に消滅し、文春側が記事を訂正・撤回することもありませんでした。
一方、松本氏側は「参加された女性の中で不快な思いをされたり、心を痛められた方がいらっしゃったのであれば、率直にお詫び申し上げます」とするコメント全文を発表。強制的な性加害の客観的証拠は見当たらなかった旨を強調しつつも、相手方への配慮を示して矛を収める形を選びました。白黒をつける司法判断をあえて下させず、互いの主張の余白を残したまま幕を引くための手法が「訴えの取り下げ」だったのです。