テレビ局関係者への取材や過去の制作記録を照らし合わせると、『北の国から』が地上波の平日の昼下がりや夕方の再放送枠から姿を消した理由は、主に3つの構造的問題に集約されます。
第1の決定打は、劇中BGMにまつわる膨大かつ複雑な著作権処理です。『北の国から』といえば、さだまさしによる哀愁を帯びたスキャットのテーマ曲が象徴的ですが、本編中にはビートルズ、ボブ・ディラン、浜田省吾、長渕剛、尾崎豊など、国内外の超大物アーティストの原盤音源が極めて贅沢にインサートされています。制作当時の1980年代はテレビの二次利用に関する権利契約が現代ほど厳密にパッケージ化されておらず、フジテレビが莫大な制作費を投じてカルチャーの粋を集めて制作した経緯があります。しかし、現在の地上波で再放送を行う場合、これら楽曲の著作権・原盤使用料の再許諾と支払いに膨大なコストが発生し、広告収入が縮小傾向にある民放キー局の地上波再放送枠では採算が合わないという厳しい現実があります。
第2の理由は、出演者の肖像権および権利関係の煩雑化です。主演の田中邦衛さんをはじめ、地井武男さん、大滝秀治さん、菅原文太さんなど、昭和・平成の日本映画界・演劇界を支えた名優たちの多くが旅立たれました。故人の肖像権や二次使用権は遺族や権利管理団体に引き継がれていますが、長大なシリーズ全編に出演した膨大なキャスト全員の権利関係を地上波放送のために再クリアすることは、編成現場にとって極めて高い実務的ハードルとなっています。
第3の理由は、昭和・平成初期の演出描写と現代の放送倫理コード(コンプライアンス)のギャップです。作中には、親による子供への激しい叱責や体罰、現代では差別的・不適切とみなされかねない過激な語彙、未成年者の喫煙・労働描写などがリアリズムの一環として克明に描かれています。倉本聰の脚本は「台本の1文字、句読点ひとつ変えることも許されない」ことで有名であり、地上波で放送するために該当シーンを恣意的にカット・修正することは、作品の芸術性と作家性を著しく損なうため権利者側が容認しないというディレンマを抱えています。