不思議の国のアリス症候群の原因を解明する上で最も重要なのは、患者の年齢層によって発症の引き金が明確に分かれる点です。
不思議の国のアリス症候群が子供に発症する場合、その過半数はウイルス感染症が契機となります。代表的なトリガーが、伝染性単核球症を引き起こすEBウイルス感染症(エプスタイン・バール・ウイルス)です。小児期にEBウイルスやサイトメガロウイルス、インフルエンザウイルス等に初感染した際、中枢神経系に一過性の軽微な炎症や自己免疫反応が生じ、頭頂葉周辺の血流が一過性に低下することで知覚異常が誘発されます。多くは発熱やリンパ節の腫れが治まる数日から数週間のうちに症状も自然消失します。
一方で、不思議の国のアリス症候群が大人に発症する場合の主因は、圧倒的に偏頭痛(片頭痛)に関連した病態です。偏頭痛の発作前後に視野の一部がギザギザと光り輝いて見えなくなる閃輝暗点(せんきあんてん)は有名ですが、アリス症候群の変視症も偏頭痛の前兆(オーラ)や併発症状として現れます。脳の神経細胞に過剰な興奮の波が広がる「皮質拡大抑制(Cortical Spreading Depression: CSD)」が視覚・頭頂連合野に及ぶことで、数分から数十分にわたって激しい知覚の歪みが生じます。
成人の発症では偏頭痛のほか、側頭葉てんかん、脳血管障害(一過性脳虚血発作など)、抗うつ薬や抗精神病薬の内服・離脱、過度の精神的ストレスや睡眠不足が誘因となることもあり、脳の精密検査による鑑別が欠かせません。