物語の中盤で強烈なインパクトを残すのが、猫を惨殺してその魂から笛を作ろうとする怪人「ジョニー・ウォーカー」の存在です。彼はウイスキーの有名銘柄のアイコンの姿を借りて現れますが、その実体はカフカ少年の父親(彫刻家・田村浩一)の霊的具現であり、近代社会が孕む冷酷な暴力性の象徴でもあります。
ナカタさんは猫たちを救うため、そして世界の崩壊を防ぐためにジョニー・ウォーカーをナイフで刺殺します。極めて象徴的なのは、東京の密室でナカタさんが下した刃が、遠く離れた四国で血まみれになって意識を失っていたカフカ少年の予言(父殺し)と完全に同期していた点です。物理的な距離を超え、ナカタさんがカフカの代わりに「悪の根源」を断ち切る役目を請け負った瞬間でした。
そして物語の後半を駆動するのが「入口の石」というキーアイテムです。この重厚な石は、現世と「世界の終わり」のような彼岸(死者の記憶が留まる場所)を繋ぐ扉の鍵です。ナカタさんと星野くんが石を裏返して扉を開いたことで、カフカ少年は時空の歪んだ深林の奥へと足を踏み入れ、自らの呪いと過去に向き合うことになります。