なぜこれほどまでに「母親」としてのイメージが世間に定着しているのか。その答えは、彼女がテレビドラマ業界と映画界に残してきた金字塔のような演技にある。
彼女の代表作の一つであるNHKの連続テレビ小説『カーネーション』では、三姉妹を育て上げながらファッション界を駆け抜けたヒロイン・小原糸子を演じきった。子育ての泥臭さ、我が子を叱り飛ばす怒声、そして底知れぬ愛。あの作品で見せた母親像は、全国の視聴者の脳裏に焼きついて離れない。
さらに映画『茜色に焼かれる』では、理不尽な社会の逆風に晒されながらも、一人息子を必死に守り抜こうとするシングルマザーの凄絶な魂を体現した。哀しみと怒りを抱え、それでも前を向くその姿は、観る者の涙を絞り出した。コミカルな男女の機微を描いた名作『最高の離婚』などでも見せた生活者のリアルな息遣いは、彼女が血肉化してきた役柄の幅広さを証明している。優れたヒューマンドラマに出演するたび、観客は彼女の実生活にも重厚な家族の物語を重ねてしまうのだ。