勢翔太という力士のキャリアを振り返る際、避けて通れないのが想像を絶する怪我との闘いです。本名・東口翔太として伊勢ノ海部屋に入門した彼は、194cmの長身と懐の深さを活かした右四つの相撲で着実に番付を上げ、最高位は西関脇(2016年5月場所)まで上り詰めました。
しかし、その華々しい活躍の裏では、満身創痍の肉体が悲鳴を上げ続けていました。足首の靭帯断裂、手首の骨折、そして力士生命を根底から揺るがしたのが蜂窩織炎(ほうかしきえん)の猛威でした。
蜂窩織炎とは、皮膚の微細な傷口から細菌が侵入し、皮下組織深くに激しい化膿性炎症を引き起こす感染症です。勢の場合、土俵の擦り傷から菌が入り、右足が通常の2倍近くに腫れ上がりました。40度近い高熱に襲われ、一時は歩行すら困難な状態に陥りながらも、彼は休場を選ばず土俵に上がり続けました。
「土俵に穴を開けることはファンの期待を裏切ること。痛みを言い訳にするくらいなら髷を落とす」という壮絶な信念のもと、勢は連続出場記録を500回以上にわたって継続させました。横綱から奪った金星5ツ、受賞した敢闘賞4点という輝かしい勲章は、まさに激痛に耐え抜いた不屈の魂が生み出した結晶でした。