統合失調症の陰性症状における社会的引きこもりは、「対人恐怖」でも「恥ずかしがり屋」でも「ニート的な無気力」でもない。その根本にあるのは、前述した神経生物学的な自発性の低下と、急性期に積み重なった「社会での失敗経験」が複合した状態だ。
急性期において、幻聴や妄想状態のときに職場や学校で「おかしな行動」をとってしまった経験は、当事者に深刻なトラウマを残す。症状が落ち着いた後も「また同じことをしてしまうのではないか」「周囲に迷惑をかけた」という羞恥と恐怖が、社会復帰への第一歩を阻む。これはPTSD(心的外傷後ストレス障害)に類似したメカニズムで働くと考えられており、単なる「怠け」とは本質的に異なる。
加えて、認知機能障害も引きこもりの重要な原因の一つだ。統合失調症では陰性症状と並行して、記憶力・注意力・処理速度・社会的認知(他者の意図を読む能力)などの認知機能が低下することが知られており、研究によれば70〜80%の患者に何らかの認知機能障害が見られるとされる。「会話が続かない」「電車の乗り換えができない」「仕事の手順を覚えられない」といった困難は認知機能の問題であり、意欲や能力の低さではない。