海産珍味の世界において、甘エビの塩辛人気の理由はどこにあるのか。最大の要因は、甘エビ(ホッコクアカエビ)が本来持つ遊離アミノ酸組成の特異性と、内臓(中腸腺・エビ味噌)に含まれる分解酵素の相乗効果にあります。日本食品標準成分表や水産加工の学術研究が示す通り、甘エビには甘みを感じさせる「グリシン」や「アラニン」、そして旨味の核となる「グルタミン酸」が他の甲殻類と比較しても極めて高い比率で含まれています。
一般的なイカの塩辛が「塩蔵による脱水と長期発酵」によって力強い熟成香を前面に出すのに対し、甘エビは身が非常に柔らかく水分量が多いため、長期間の強烈な塩漬けには耐えられません。そこで職人たちは、塩分を抑えつつエビの頭部にある濃厚な味噌と身を丁寧に絡め合わせ、短期間でタンパク質をアミノ酸へと分解させる低温熟成技術を確立しました。
食の官能評価試験に関わる研究者への取材によると、「甘エビの塩辛を口に入れた瞬間、まずグリシンの甘みが舌先を刺激し、追ってエビ味噌に含まれるイノシン酸とグルタミン酸の相乗効果が押し寄せる。この強烈な旨味の二重構造こそが、脳の報酬系を刺激し『箸が止まらない』状態を引き起こす」と分析されています。アルコールの苦味や酸味を包み込む包容力と、白米のデンプンが持つ甘みを爆発的に引き立てる塩梅が、愛好家たちを虜にする最大の秘密なのです。