フォーマルウェアの基本において、もっとも避けるべき初歩的なミスが「卒業式に黒のネクタイを締めていくこと」です。一部のファッション誌やネット上の掲示板では「海外のタキシードではブラックタイが最高格式」「モード系の黒ネクタイならスタイリッシュで問題ない」といった言説が散見されます。しかし、日本の学校教育現場における式典マナーにおいて、この解釈をそのまま当てはめるのは極めて危険な行為です。
日本の儀礼文化には、古くから日常の「ケ」と非日常の「ハレ(祝事)」、そして悲しみの場である「弔事」を厳格に色で区別する伝統があります。日本のフォーマルシーンにおいて、ダークスーツに黒無地のネクタイを合わせる着こなしは「喪服(不祝儀)」そのものを意味します。卒業式は別れの場であると同時に、これまでの成長を讃え未来へ送り出す純然たる「慶事」です。そこで黒ネクタイを着用することは、周囲に対して「お葬式に来たのか」という強烈な違和感と不快感を与えかねません。
「黒地に華やかなドットやシルバーのストライプが入っていればセーフではないか」という疑問を持つ方もいます。しかし、壇上から見渡す式典会場や遠目からの視線、さらには後日見返す集合写真において、ベースが黒いネクタイは沈んだ暗い印象に映りがちです。特に父親世代が黒スーツに黒ベースのネクタイを合わせてしまうと、完全に法事の装いと重複します。祝意を行動と身だしなみで示す式典の場において、あえて誤解を招くリスクのある黒を選ぶ理由はどこにもありません。