鬼滅の刃における上弦の鬼たちは、いずれも日本アニメ界を牽引するトップクラスの主役級声優陣が名を連ねています。その中でも、猗窩座役に石田彰氏が配役されたことは、当時の業界関係者や原作ファンの間でも類を見ない衝撃をもって受け止められました。
外崎春雄監督をはじめとする制作陣および音響監督・三間雅文氏が求めたのは、単に「粗暴で筋肉質な戦闘狂」の声ではありませんでした。猗窩座というキャラクターの本質は、強さのみを追い求める純粋な求道心と、その深層に刻まれた「人間時代の凄惨な喪失と悲哀」です。制作関係者の証言を総合すると、強者への冷酷な選別を行う理知的な響きを持ちつつ、どこか精神的な脆さや透明感を滲ませる声の持ち主として、真っ先に名前が挙がったのが石田氏でした。
石田氏自身、当時の特番インタビューや公式プログラムにおいて、「強さを求める純粋さゆえの狂気と、人間を侮蔑する悪役としての確信」を意識してマイクに向かったと述懐しています。煉獄杏寿郎を演じた日野聡氏とのスタジオ収録では、一切の妥協のない緊迫感が張り詰め、言葉一つひとつの圧で相手を侵食していくような演技プランが組み立てられました。あの甘美にすら聴こえる「お前も鬼にならないか」という勧誘の台詞は、石田氏の持つ独特の気品と艶情があって初めて成立した奇跡的な名シーンと言えます。