しつけの問題として片付けられがちな腰振りですが、臨床現場では重大な身体的疾患が隠れていたという症例が数多く報告されています。心理的な興奮と器質的疾患を見分けるための着眼点を把握しておくことは、愛犬の健康維持に直結します。
最たる疾患が尿路結石症や膀胱炎などの泌尿器系疾患です。尿道に炎症や結石が存在すると、排尿後も残尿感や下腹部の鈍痛が継続します。犬はその不快感を紛らわせようとして、ベッドや床、クッションに陰部を擦りつけるように腰を振ります。「排尿姿勢をとるのに少量しか出ない」「尿の色が濁っている、血が混じる」「陰部を頻繁に舐め回している」といった兆候が併発している場合、しつけではなく即座に獣医師の診察を受ける必要があります。
また、アレルギー性皮膚炎やノミ・ダニ感染も見逃せません。下腹部、内股、肛門周囲に強い痒みが生じている場合、手足で掻ききれない部位の痒みを鎮めるために腰を押し付ける動作を反復します。さらに、肛門嚢(こうもんのう)の破裂・炎症が起きている際にも、お尻歩きと並行して腰を振るような奇異行動が見られます。
骨関節系のトラブルも要因となります。特に高齢犬や胴長短足犬種(ダックスフンドやコーギー等)において、変形性関節症や椎間板ヘルニアによる神経圧迫が生じた際、下半身の違和感や痺れを解消しようとして腰を揺らすケースがあります。以前は全く見られなかった犬がシニア期に入って突然腰を振り始めた場合は、加齢による関節変性を疑う視点が不可欠です。