日本国内で親しまれている『サンタ・ルチア』の日本語歌詞は、大正から昭和初期にかけて活躍した名訳者たちによって生み出されました。中でも教育現場や音楽出版物で圧倒的なシェアを誇るのが、妹尾幸陽(せのお こうよう)訳と堀内敬三(ほりうち けいぞう)訳です。
妹尾幸陽訳は、大正時代に「セノオ楽譜」を通じて海外の名曲を日本に普及させたパイオニアの手によるもので、詩的で情緒豊かな文語表現が特徴です。一方、NHKの音楽番組制作や音楽評論で多大な功績を残した堀内敬三訳は、平易で分かりやすい口語表現を用い、昭和中期以降の学校教科書で広く採用されてきました。
妹尾訳の「月影ゆれて 静けき波に」は、イタリア語原曲の「Sul mare luccica(海の上に輝く)」という光のきらめきを文学的な日本語へと見事に昇華させています。一方、堀内訳の「波路はるかに 船を浮かべて」は、ブレスの位置や音符への母音の乗りやすさが緻密に計算されており、学校教育の合唱教材として極めて歌いやすい設計になっています。