日常の会話において、私たちは相手の表情のわずかな翳り、声のトーン、言葉の選択から「真意」を推し量る作業を無意識に繰り返しています。心理学ではこれをメンタライジング(他者の心的状態を推し量る認知機能)と呼びますが、社会生活が複雑化するほど、この機能はフル稼働を強いられ、脳に甚大な疲労をもたらします。
人が「嘘をつかない純粋な存在」を求める心理的理由の根底にあるのは、この認知的防衛の完全な解除への欲求です。臨床心理学の創始者の一人であるカール・ロジャーズが提唱した「無条件の肯定的配慮(Unconditional Positive Regard)」という概念が示す通り、人間は「何かができるから」「役に立つから」愛される条件付きの承認ではなく、「ただそこに存在するだけで受け入れられる」という無償の愛を根源的に欲しています。
しかし、大人の人間関係は利害関係や社会的役割というフィルターに覆われており、裏切りや失望のリスクが常につきまといます。「嘘がない」と確信できる対象と対峙した瞬間、人は初めて他者への警戒という強固な鎧を脱ぎ捨て、剥き出しの自己を晒すことができるのです。純粋無垢な存在への憧れとは、単なるノスタルジーではなく、傷つき疲弊した自我を守るための切実な生存戦略に他なりません。