自ら針を飛ばせないとすれば、ヤマアラシはどのようにして身を守り、敵を攻撃しているのでしょうか。その実態は、遠距離狙撃ではなく強烈な近接格闘戦(バックアタック)にあります。
危険を察知したヤマアラシは、まず頭部を守るために外敵へ背中やお尻を向けます。そして威嚇が通じないと判断するやいなや、突如として猛スピードで後ろ向きに突進し、無防備な相手の顔面や前足に硬い針の束を力任せに突き刺します。このバックステップの破壊力とスピードは凄まじく、並の捕食者では反応すらできません。
ここで重要なのが、ヤマアラシの針が極めて抜けやすい構造になっている理由です。針の根元にある毛包の結合力は意図的に非常に弱く作られており、獲物の肉体に先端が触れた瞬間、抵抗なく皮膚からポロッと外れます。針が本体から瞬時に外れることで、ヤマアラシ自身はダメージを負うことなく安全に離脱でき、相手には致命的なトゲだけを確実に残すという合理的かつ冷徹な戦法を成立させています。